中小企業対象に、令和5年4月1日から60時間超の残業の、割増賃金率が50%に引き上げられます。
【60時間超の残業の割増賃金率】
大企業:現在50%(平成22年4月1日~)
中小企業:現在25% → 50%に引き上げ(令和5年4月1日~)
大企業は既に適用されて10年以上、中小企業は「当分の間」適用を猶予されていましたが、13年続いたその「当分の間」は終わりが決まったということになります。
『働き方改革 ~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~』ということで、令和1年4月~順次進められていた労働基準法の大きな改正の一つとして決定されたものです。時間外労働の上限規制についての改正、年次有給休暇の5日間取得義務、高プロの創設などもこのときに決定され、現在すでに適用されています。
適用のタイミングと例
例)賃金計算期間1日~月末「勤怠末〆、翌月25日払い」の会社の場合
令和3年4月1日~4月30日の勤怠
(令和3年5月25日支給分)から適用
法改正施行日以降の勤怠分から適用となります。
例)土日祝日が休み、所定労働時間8時間、法定休日日曜の会社の場合
月~金:毎日2時間残業×20日 + 土曜日6時間×4日 働いた場合
40時間 + 24時間 = 64時間(4時間分は割増率50%で支給)
60時間を超えた4時間分は、通常の割増賃金率25%ではなく、50%で支払うことになります。給与計算の際は分けて計算するひと手間が必要です。
法改正への準備
この法改正に向けて、必要な準備として考えられるのは、残業時間の削減にむけての取り組みと、労務管理上の対応です。
- 従業員の時間外労働の現状を把握
- 時間外労働の削減に向けた業務、人員配置等の見直し
- 賃金規定の改定
- 勤怠管理システム、給与システム設定変更
1名、2名でたまに残業60時間越えが発生する、というくらいの状況であれば、残業代にかかるコスト増は少々で済むかもしれませんが、同じような方が数名、数十名、それが毎月発生となると、1年間で増える残業代の総額は決して見逃せません。
また、どうしてもやむを得なかった残業であったならまだしも、生産性が悪い、非効率な中で発生した残業であれば、なおさら切羽詰まった問題となります。業務改革を行うにも、従業員に納得感をもっていただきながら、適切に実現するには試行錯誤の時間が必要かもしれません。この改正を機に、残業時間が多い企業は、削減に向けて今から取り組んでも早すぎることはないでしょう。
労務管理上の対応として、賃金規程の見直しと周知、改定、労働者10名以上なら労基署への届出も必要です。勤怠管理や給与計算システムについても、少なからず正しく割増賃金を支給するために、設定変更は必要となるでしょう。
対応できていなかった場合
労働基準法37条違反、割増賃金の不払いとして「6か月以下の懲役30万円以下の罰金」という罰則があります。
また、万が一、労働者が割増賃金の不払いについて裁判を起こし本人が請求した場合、会社は付加金といって、本来の額の2倍を払わなくてはならない事態にもなり得ます。
法律は、悪意がなくても「知らなかった」では済まされないので、早めに準備をしておきましょう。
働き方改革の「目的」
この働き方改革における労基法の一連の見直しの目的について、厚労省のパンフレットでは下記のように書かれています。
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「働き過ぎ」を防ぎながら、「ワーク・ライフ・バランス」と 「多様で柔軟な働き方」を実現します
⇒ 長時間労働をなくし、年次有給休暇を取得しやすくすること等によって、 個々の事情にあった多様なワーク・ライフ・バランスの実現を目指します。
⇒ 働き過ぎを防いで健康を守る措置をしたうえで、 自律的で創造的な働き方を 希望する方々のための新たな制度をつくります。
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今回の残業時間60時間超えの割増賃金率アップについては、60時間超えて残業している人には高い賃金をはらってください、というのが目的ではありません。そうならないよう、業務改善や生産性の向上をめざし、あらゆる労働者の健康を守りながら、企業も発展していきましょう、という意味合いのものであることは言うまでもありません。
最後に
法律に従うことは当然ですが、どういう方法で対応するかは会社次第です。「違反にならにいように」と考えて施策を練るか、もしくは先述の目的実現のために施策を練るかでも、結果は大きく変わります。
36協定の上限規制が青天井でなくなったとき、企業は「とにかく残業しないで」ということで、夜はある時間になるとオフィスの電気を強制的に消灯したり、PCを使えなくしたり、とりあえず強硬手段にでてしまったところもあります。それが解決の糸口、または社員の意識改革につながり、生産性向上や業務改善、「ワーク・ライフ・バランス」につながる結果となれば、それも一つの方法かもしれません。ただ、逆にその方法が原因で、自宅でのサービス残業やファミレスに移って仕事を続けるような事態となれば、社員は疲弊してしまい、この法改正の意義もないがしろになっています。
働き方改革の一連の法改正が決定した際、いろいろな会社様へ説明に伺いました。最初は「そんなこと言われても、うちは人少ないから無理だよ」という経営者の方のお声、とても多かったです。ただ、そんな経営者の方も、従業員の方を大切にしたいという気持ち、事業をより伸ばしていきたいし、働き方改革ができたらいいよね、というお気持ちも同時にお持ちであることも確かなのです。
法改正の意義はもちろん、もう一度会社の目標は何か、実際の自社と社員の状況を確実に把握しているか、問題を直視して後回しにしていないかどうか等々、一度振り返り、社内で、できれば労使で腹を割ってしっかり話し合う機会にもなればと願います。
労使が対等に話し合い、歩み寄ることができれば、改善策は必ず生まれてくるものです。
